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第二曲「ストーリー」

最終話「青島刑事よ永遠に」


 真下刑事が撃たれた―。捜査本部のおかれた湾岸署の会議室には100人以上の刑事が集まり緊迫した空気が流れていた。

 真下刑事を撃ったのは安西昭次。6年前にも警官殺しをした疑いのある男だ。

 捜査会議が終わり捜査の割り振りが決まったが、青島だけが仕事を与えられず、警察庁の監察官から質疑を受けることになる。非合法のカジノバーとの癒着が疑われていた。仲間が撃たれて犯人が逃げている、捜査のほうが優先だと青島は主張するが、監察官の坂村は聞く耳を持たなかった。

 一方、捜査本部で指揮をとっていた室井も監察官に監視されていた。室井が本庁と所轄の縦割り構造を廃止すべきだと言ったことが上層部で問題になったのだ。

 青島は真下のパソコンに安西らしき男を見たという情報のメールが来ていることを知り、すみれとその情報提供者の白石という男の勤務するイメクラに向かった。安西の情報について白石に聞いているところ、偶然安西がその店にやってきた。

 青島とすみれが刑事であるということを知ると、安西は二人に向かってけん銃を発砲した。弾はだれにも当たらなかった。逃げる安西に青島もけん銃を向けた。青島は慣れない手つきで引き金を引いたが、弾は安西には当たらず、花瓶を砕いた。青島は体が固まってしまっている。安西はそんな青島を見据えながらその店を後にした。

 翌日、安西が現れて青島が発砲したということを知った室井と、監察官の坂村、刑事局長らが湾岸署にやってきた。もし一般人に弾が当たっていたら警察の威信が崩れていたと憤慨する刑事局長は青島をにらみつけた。室井は言った。「これは青島刑事の一人のミスです。彼を処分します」。青島は室井には失望し、彼をにらみつけるが室井は青島を部屋の外へ連れて行った。言うことを聞かず騒ぐ青島を室井は押さえつけて言った。「聞け!!」

 「この事件はわたしがやると言ったろ! もう上のものには何も言わさない」。室井は監察官や刑事局長の目から逃れるために演技をしていたのだ。「わたしも足で捜査する。特捜本部などくそくらえだ!」。その様子を見ていた緒方警官があわてて走り出した。

 室井と青島はそのまま外へ出て行った。そこに一台の覆面車が止まった。覆面車から緒方警官が降りたって言った。「使ってください。警務課には僕が始末書書いときます」。そういうと緒方は室井のために後部座席のドアを開けるが室井は助手席に乗った。室井は初めて青島の運転する車の助手席に乗った。この瞬間、二人の間で本庁と所轄の垣根がとりはらわれたのだ。

 そのころ刑事課では神田署長らが刑事局長らにお茶とお菓子をだし、精一杯の接待をしていた。しかしそこに室井と青島が無断で出て行ったと情報が入り、刑事局長らは彼らを止めようと出て行こうとする。しかし神田署長、秋山副署長、袴田の3人がそれを止めた。「ちょっと、お待ちを…」 「お茶を飲んでからでもよろしいじゃないですか」 「最中もまだたくさんございますので」。3人は刑事局長らを必死で止めていた。「本当にうちの刑事には手を焼きます…」」「まったく、出来損ないばかりで…」。3人は笑いながら言った。

 「しかし…うちのかわいい刑事でして…出来損ないでもね、命はってんだ!!」。見上げた顔はもう笑っていない。神田は強く見据え辞表を服からだした。それに秋山、袴田も続く。「わたしたちの首をお預けします」。3人の殺気ある笑顔に圧倒され、刑事局長たちはそこを動けなくなった。そして奥ではすみれが拍手をしていた。

 車で出て行った青島と室井は東京拘置所に行き、青島の機転と、室井の権力で拘留されている容疑者の男と会うことに成功した。その男とは以前和久に爆弾椅子を贈ってきた警官殺しの山部であった。安西と同じようにフィリピンで武器を密輸していた山部からフィリピンで手に入れた武器は西麻布のバーで取引がされることを聞き出した青島らは安西がそこに現れることを確信した。

 夜、室井と青島は西麻布のバーで安西が現れるのを待っていた。室井も処分をうけるのかと聞く青島に室井は覚悟していると答えた。「でも室井さん、警察の機構を変えるために絶対上に行くって…」「そう決めてた…捜査から政治を排除して本庁と所轄の枠を取り払って捜査員がみな正しいと信じたことをできるようにしたかった。きみのようにな。…自分が正しいと思えなければ命を張ってなんか働けないだろ」。

 「和久さん言っていました。正しいことをしたければ偉くなれって。…そうか、何かを変えることは外からじゃできないんだ。中にいる人間がしなくちゃいけない。和久さんはそういう意味で…。…なら室井さん辞めたらダメだ。辞めたら何もできなくなる」。そう訴える青島に室井は静かに答えた。「仕方ない、負けだ…」。

 ちょうどその時安西が店にやってきた。青島と室井はその存在に気がついた。安西は小包を抱えている。そして安西は他の客をよけながらフロアの中央にでた。 

 安西は自分の目の前に青島が立っていることに気づき、ニヤッと笑みをおくり右手をポケットにいれた。店内の音楽が止まり、騒ぎがやんだ。

 「確保!」。その瞬間、店内にいた客全員がけん銃を出し、安西を取り囲んだ。安西の顔にいくつもの銃口が向けられる。客たち全員が警察手帳をだして言った。「警視庁だ」。

 安西は状況が飲み込めると平然とけん銃を構え青島に向けた。店内に緊張が走った。青島は少しずつ安西に近づいていった。安西はそのままの姿勢で動かない。室井もけん銃を安西に向けるが、安西はなおも動かない。青島はさらに前に進んだ。青島は前に安西とあったときのように怯えていなかった。青島は強く安西を見つめた。

 そして安西は静かにけん銃を下ろした。

 安西を逮捕した室井と青島は、安西をつれて湾岸署に戻ってきた。6年前の事件の取調べを和久に託した青島らは刑事局長から一週間後に査問委員会にかけられることを告げられた。査問委員会になれば下手をしたらクビである。心配するすみれらに青島は微笑んだ。

 和久は取調室で安西に向かっていった。「青島ってのは面白いやつでなぁ。あいつは正義が何かよくわかってねぇ。ちゃらちゃらしてるし勘違いばかりするし勇み足の王者だ。…だがなここ(心)に信念を持ってやがる。若いのに珍しいだろ…。おれはあいつと付き合って最近判ったんだ。青島ってヤツはあれなんだ。あいつにはどうも、あいつだけの法律があるらしい。心の法律みたいなもんだな。上が決めた法律は破るんだが、自分の心にある法律は絶対にやぶれないらしい。そういうやつなんだよ。…安西さんよ、俺は今日で定年だ。あんたを取り調べる時間はなくなった」。和久は取調べ室に青島を呼んだ。

 和久は青島が入ってくると再び安西に話しかけた。「明日からの取り調べはこの青島がやる。…これで退職できる。もう心残りはない。…俺が辞めてもこいつがいる限り警察は死なねぇぞ…」。和久はそういうと取調べ室をでていき、黙って帰る準備を始めた。和久は顔を上げ笑顔で「あとは頼んだぞ」と言うと湾岸署を後にした。彼にはもう何の心残りもない。

 1週間後、査問委員会が開かれた。刑事局長から二人の処分がいいわたされたが、室井は青島の処分だけがきびしいことに対して反論をした。「平等に処分して欲しい」と。しかし青島は刑事局長らの決定を支持すると答えた。責任をすべて引き受けようとする青島に対して室井は反論したが、青島は室井の胸倉をつかむと言った。「あんたは上にいろ! …俺には、俺の仕事がある…。あんたにはあんたの仕事があるんだ…」。

 査問委員会が終わり、帰ろうとする青島に室井は尋ねた。「君はこれでいいのか?」と。「俺達、頑張ります。同じ気持ちの人が上にいてくれんですから。…室井さん、現場の刑事たちはあなたに期待しています」。

 青島は笑って歩いていった。室井もそれをだまって見送った。青島は立ち止まって振り返り室井に敬礼をした。室井もそれをみつめて敬礼をした。青島が敬礼したまま微笑む。室井も微笑む。室井が始めて笑った瞬間だった…。

 数日後、警察学校で雪乃は警察学校で働くことになった和久と出会った。和久は雪乃に言った。「亡くなったお父さんのことを忘れないで頑張るんだぞ」。雪乃は力強く「頑張ります」と答えた。和久は敬礼をする雪乃に対して言った。「お巡りさんは格好が第一なんだぞ。少年たちのヒーローなんだからな」。和久も雪乃と並んで敬礼をした。

 さらに数日後、真下が刑事課に元気な姿で戻ってきた。体が完全に治るまで本庁への異動は見送られ、しばらく湾岸署に残ることになったのだ。青島のデスクがあいているのを見た真下は青島がどうなったのかとみんなに尋ねた。みんなは目をそらして言葉をにごしたがすみれがその質問に答えた。「やってるよ…。警官…」。

 練馬管内の街中の交番に制服で青島はいた。お守りをくれた吉田のおばあちゃんが交番に青島を訪ねてきた。青島はおばあちゃんをベンチに座らせて貰ったお守りを見せた。

 春の日差しの中、青島が得意げにおばあちゃんと話をし始めた…。 
 





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